1.民事訴訟は、権利の存否を判断することによって、私人間の法的紛争を解決する制度

民事訴訟の目的は、私人間の法的紛争を解決することです。

民事訴訟は、「私人間の法的紛争を解決する」という目的を達成するために、「権利の存否を判断する」という手段を用います。民事訴訟は、権利の存否を判断することによって、私人間の法的紛争を解決する制度です。

では、民事訴訟は、どのように権利の存否を判断するのでしょうか。

権利は、五感で認識できません。権利の存否を判断するには、五感で認識できない権利を認識するために、何らかの方法を用いなければいけません。

そこで、民事訴訟は、五感で認識できない権利を認識するため、ある仕組みを備えています。民事訴訟は、この仕組みを活用することで、五感では認識できない権利を認識し、権利の存否を判断しています。

この、民事訴訟が活用するこの仕組みを理解すると、民事法の学習は、大幅に促進されます。

2.民事訴訟が権利の存否を判断する仕組み

民事訴訟が権利の存否を判断する仕組みは、次の2段階に分かれます。

権利変動の組み合わせによって、権利の存否を認識する

法的三段論法によって、個々の権利変動を認識する

(1) 権利変動の組み合わせによって、権利の存否を認識する

ア 五感で認識できない権利の存否を、権利変動の組み合わせによって、認識する

権利は五感で認識できません。ですから、権利の存否を直接認識することはできません。

そこで、民事訴訟は、「権利変動の組み合わせによって、権利の存否を認識する」という仕組みを採用しています。

これは、別の手段(後述(2)で説明する法的三段論法)によって権利変動を認識し、その組み合わせによって、権利の存否を認識する、という段階を踏む、という仕組みです。

イ 権利変動とは? 4種類の権利変動

まず、権利変動とは何でしょうか。

権利変動とは、権利の変動、つまり、権利が動くことです。

日本の法制度上用意されている権利変動は、一般に、次の4つに分類できる、とされています。

  1. 発生・・・存在していなかった権利が存在するようになる、という変動
  2. 障害・・・何らかの権利変動の効果が、なかったものとされる、という変動
  3. 消滅・・・存在していた権利が存在しなくなったり、生じていた権利変動が生じなくなったりする、という変動
  4. 阻止・・・権利は存在し続けているのだけれど、その権利が使えなくなる、という変動

ウ 権利変動がなければ、権利は動かない

権利変動と権利の関係で大切なのは、「権利変動がなければ、権利は動かない」ということです。

権利は、勝手に動きません。権利が動くためには、権利変動が必要です。

権利変動なしに、いつのまにか権利が出現していた、ということはありません。同じく、いつのまにか勝手に権利が消えることもなければ、知らないうちに権利が使えなくなることもありません。

過去に存在していなかった権利が現在存在しているのなら、その過去から現在の間に、発生という権利変動があったはずです。過去に存在していた権利が現在存在していないなら、その過去から現在の間に、おそらく消滅という権利変動があったはずです(ほかにも可能性はありますが)。

権利が動いたなら、そこには必ず何らかの権利変動があります。権利変動がなければ、権利は絶対に動きません。

これは、民事訴訟が活用する仕組みを理解するために、とてもとても大切なことです。

エ 権利変動の組み合わせによって、権利の存否を認識する仕組み

権利は、権利変動なしに勝手に動かないので、権利の存否は、すべて、権利変動の組み合わせによって決まります。

たとえば、ひとつの権利について、「発生」と「消滅」という2つの権利変動があり、かつ、この2つ以外の権利変動がないとします。「発生」という権利変動と「消滅」という権利変動が組み合わさると、「発生」によって発生した権利が、「消滅」によって消滅する、という形で権利が動きます。そのため、結論として、この権利は存在しません。

あるいは、ひとつの権利について、「発生」と「消滅」と「障害」という3つの権利変動があり、かつ、この3つ以外の権利変動がないとします。これは、「発生」した権利が「消滅」したけれど、その「消滅」の効果が「障害」によって生じなくなった、ということです。つまり、「発生」「消滅」「障害」が組み合わさると、結論として、この権利は存在する、ということになります。

このように、権利の存否は、権利変動の組み合わせによって決まります。そのため、その権利についての権利変動をすべて認識することができれば、その組み合わせによって、権利の存否を判断することができます。

(2) 法的三段論法によって、個々の権利変動を認識する。

ア 法的三段論法で、事実と権利変動をつなぐ

権利変動を認識すれば、権利変動の組み合わせを把握することで、権利の存否を認識することができます。しかし、権利を五感で認識できないのと同じように、権利変動を五感で認識することもできません。そこで、何らかの方法で権利変動を認識する必要があります。

ここで登場するのが、法的三段論法です。法的三段論法は、五感で認識可能な事実を認識することで、五感で認識できない権利変動を認識することを可能にする仕組みです。

イ 法的三段論法の構造

法的三段論法は、以下の構造を持っています。

  • 大前提(規範):法律要件(事実)→法律効果(権利変動)
  • 小前提(事実):法律要件に該当する事実
  • 結論(権利変動):法律効果に定められた権利変動

つまり、法的三段論法とは、「法律要件→法律効果」という形からなる法規範を大前提として、法律要件に該当する事実が存在するという小前提によって、法律効果に定められた権利変動が発生するという結論を導くものです。

ここで、法的三段論法を動的に捉えれば、

  • 事実が法律要件にあてはまること
  • 「法律要件→法律効果」という規範が発動すること
  • 法律効果に定められた権利変動が生じること

という3つの動きをとらえることができます。

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ウ 事実の世界と権利の世界の壁を抜ける

この法的三段論法の中には、事実の世界と権利の世界があります。

権利変動は五感で認識不可能です。大前提のうちの「法律効果」と結論の「法律効果に定められた権利変動」がこれにあたります。この2つは、権利の世界に属するので、五感で認識不可能です。

これに対して、事実は五感で認識可能です。大前提のうちの「法律要件」と小前提の「法律要件に該当する事実」がこれにあたります。この2つは、事実の世界に属するので、五感で認識可能です。

比喩的に言えば、法的三段論法は、「法律要件→法律効果」という大前提の機能を利用して、事実の世界から権利の世界へと壁を抜けるための仕組みです。

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エ 法的三段論法で、個々の権利変動を認識する

このように、法的三段論法を使えば、五感で認識可能な事実を認識することによって、五感で認識不可能な権利変動を認識することができます。

民事訴訟が権利変動を認識する手段は、原則として、この法的三段論法ただひとつです(例外はあります)。したがって、権利変動を認識するためには、法的三段論法を使う必要があります。

3.まとめ

(1) 民事訴訟は、権利の存否を判断することによって、私人間の法的紛争を解決する制度です。

(2) 権利は、その存否を直接五感で認識することができません。したがって、権利の存否を判断するには、次の2段階を踏む必要があります。

ア 権利の存否を認識するためには、権利変動の組み合わせを把握する必要があります。

イ 個々の権利変動を把握するためには、法的三段論法を使い、事実を認識することによって権利変動を認識する、という手段を用います。

(3) 民事訴訟が権利の存否を判断するために活用しているこの仕組みを理解すると、民事法の学習にとって、大変効果的です。