1.要件事実の効用

要件事実を身につけることには、3つの効用があります。

まず、要件事実は、民事訴訟実務の基本指針になります。適正な法的主張をするために必要なのはもちろんのこと、どのような事実調査をしたらよいかを示してくれるのも、要件事実です。

次に、要件事実は、民事法の学習、とくに民法の学習を促します。要件事実を身につけている人の民法理解度と、要件事実を身につけていない人の民法理解度は、別次元の違いがあります。これはなにも、民法の具体的な制度についての要件事実を知っているか否か、という話ではありません。要件事実の考え方を身につけることは、民法全体に対する理解の度合いを、異次元に進めるほどの威力があります。

さらに要件事実は、民法の事例問題を作成するためのツールになります。訴訟物を特定することからスタートする要件事実の考え方は、事例問題を検討するプロセスに通じます。請求原因・抗弁・再抗弁といった要件事実の大ブロックは、少し調整すれば、そのまま答案構成になります。

2.要件事実を身につける方法

では、どのようにすれば、要件事実を身につけることができるでしょうか。私が大切だと考えているのは、次の2点です。

(1) 民法が基本

要件事実は、民法などの民事実体法です。民事実体法そのものといっても過言ではありません。そのため、要件事実を身につけるには、民事実体法を身につける必要があります。民事実体法を離れて、要件事実だけを身につけることは、原理的に不可能です。

民事実体法の中でいちばん大切なのは、言うまでもなく、民法です。したがって、要件事実を身につけるためには、民法を学ぶ必要があります。

要件事実を身につけるためには民法を学ぶ必要があるということを意識して民法と要件事実を学べば、要件事実と民法とが一体のものであるということが、実感をもって理解できます。こうなると、要件事実と民法の学習は、相乗効果を発揮して、うまく進みます。

(2) 『新問題研究 要件事実』を10回20回単位で繰り返し、基礎を身体にたたき込む

次に大切なのは、要件事実の基礎を身体にたたき込むことです。

要件事実は、知識ではなく、思考ツールです。要件事実を身につけるために必要なのは、知識を覚えることではなく、考え方を身につけることです。考え方を身につけるための王道は、基礎を身体にたたき込むことです。

基礎を身体にたたき込むために有効なのは、反復練習です。基礎を身につけるための練習メニューを、何度も何度も徹底的に繰り返すことによって、基礎を身体にたたき込むことができます。

では、どの教材を使って、どんなことを繰り返すとよいでしょうか。

私は、『新問題研究 要件事実』を使い、ここに収録されている13題の設例を、何度も何度も(最低10回、できれば20~30回)繰り返す、という練習メニューを推奨します。

『新問題研究 要件事実』は、司法研修所の民事裁判教官室が、司法修習のために作成した教材です。市販されていますので、入手可能です。大学生協などでも販売されています。

同書には、言い分方式(司法研修所が生み出した要件事実教育の方式)の、ごくごく簡単な(バカにしているんじゃないか、とすら感じられるほどの平易な)設例が、全部で13題、収録されています。そして、この、異常に簡単な13題の設例に対して、そこまで書かなくても、というほど丁寧な解説が、延々と続きます。

設例も解説も、平易です。そのため、同書を通読するのは、ひととおり民法を学んだ者であれば、誰にだって難しくありません。

でも、通読して知識を得るだけでは、同書の力は、その100分の1も発揮されません。『新問題研究 要件事実』の力は、これ以上ないほど簡単な13題の設例を、何度も繰り返し解くことによってこそ、発揮されます。

『新問題研究 要件事実』の設例を、10回20回単位で繰り返す。

私が推奨する要件事実を身につける方法は、これに尽きます。