1.読むだけでは、不十分

法律学習には、いくつかのコツがあります。そのひとつは、練習です。

多くの法学部生や法科大学院生は、法律学習の中心は、教材を読むことだと考えています。基本書を読む学生もいれば、予備校本を読む学生もいますが、いずれにせよ、彼らは、法律学習を教材を読むことほぼイコールに捉えています。

教材を読むことは、法律学習にとって、重要かつ必要です。しかし、教材を読むだけでは不十分です。この理由は、法的三段論法から説明できます。

法律の基本は、法的三段論法です。法的三段論法は、以下の構造を持っています。

  • 大前提(規範):法律要件(事実)→法律効果(権利変動)
  • 小前提(事実):法律要件に該当する事実
  • 結論(権利変動):法律効果に定められた権利変動

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法律学習は、法的三段論法の全体をカバーしなければいけません。少なくとも、大前提たる規範を理解すること、小前提たる事実を把握すること、法律効果に定められた権利変動を具体的に説明できることを学ぶ必要があります。

しかし、教材を読むことによって学べるのは、主に、大前提たる規範についての知識です。

そのため、教材を読むことだけでは、小前提たる事実としてどんなものが存在するのかを把握したり、結論たる権利変動を具体的に理解したりすることは、学べません。

教材を読むだけでは、法律学習にとって、不十分です。

2.法律の学習は、数学の学習に近い

(1) 数学の学習との共通点

別の観点から説明します。

法律を学び始める大学生は、大学に入学するまでに、高校で、多くの教科を学んでいます。これら多くの教科の中で、法律の学習と近いのは、どの教科でしょうか。

高校で学ぶ教科の中で、憲法訴訟や行政訴訟を学ぶのは、現代社会などの社会科です。そのため、法律の学習は社会科の学習に近い、と考える学生もいます。

また、法律を学ぶことは、新しい言語を学ぶことに近い、という意見もあります。高校で学ぶ教科でいえば、英語です。

しかし、私が考えるに、法律の学習と近いのは、現代社会でも英語でもなく、数学の学習です。

法律と数学は、抽象的な法則を具体的な事例に適用し、具体的な事例の結論を導く、という点において、共通するためです。(この意味で、物理の学習も法律の学習に近いといえます。)

(2) 数学学習の中心が練習であるのと同じように、法律学習の中心も練習

数学を学習するときに、教材を読むだけで十分だ、と考える高校生は、たぶん、ほとんど存在しません。むしろ、多くの高校生は、数学を勉強するということは、問題集を解くこととほぼイコールだと考えています。数学の学習は、練習中心です。

法律の学習も、これと同じです。数学の学習の中心が練習であるのと同じように、法律学習の中心も、練習です。

3.法律学習のコツは、練習を重視すること

法的三段論法のうち、法律学習でいちばんたくさんの時間を必要とするのは、大前提たる規範についての知識を身につけることです。民法だけでも1000条を超える条文があり、日々新しい判決が下されています。どれだけ勉強を重ねても、大前提たる規範についての知識を網羅することはできません。

そのため、法律学習の中心が、この部分の知識を身につけるために教材を読むこと、になるのは、ある意味、仕方ないことでもあります。

しかし、大前提たる規範についての知識がどれだけ豊富でも、法的三段論法のそれ以外の部分が不十分であれば、せっかく身につけた知識を適切に使うことができません。

法的三段論法全体をバランスよくカバーするには、法律学習の中心は練習である、と考えておく方がよいと、私は感じています。